「子供のときってきっと、みんなが嘘をついていたよね」
大人もついてるよ、そんなの。ぼくはぶっきらぼうに答えた。
「そうだね、子供も大人も酷くて憎くてすごく悪い嘘をついている気がする」
隣に座りながらそう言う彼女の髪が、風に舞い上がる。
秋の空気は、少し冷たい。
「じゃあ、みんながみんな嘘をついてるってことじゃん」
彼女はそう言ったぼくの顔を見て、少し俯きながら笑った。
ぼくはその悲しい顔が嫌いだ。
そんな笑顔は、笑顔と呼びたくない。
「でもそれは、きっと本当のことだよ」
その返事にぼくはそうだな、と返した。
だったらなんなんだろう。
ぼくも彼女も嘘をついている、と言いたいのだろうか。
あの男もあの人もそこの他人もみんなみんなみんな。
この気持ちにもあの気持ちにも嘘をついているのかも知れないね。
彼女はそう言って笑う。
おかしくなんてないのに。
こうやっている今のこの現実は、嘘じゃないのに。
それとも、中身が偽りなら表も偽りになってしまうのだろうか、全て。
だけど、表が本当だったら、中身も本当になるのか。
彼女に訊いても、おそらく返事は曖昧だ。
わかっている。
全て知っている人など誰もいない。みんなみんなわかっていない。
消えそうな声で、でも嘘だけじゃないよね、ときみが呟いた。
何か言おうと思ったのに返事が出てこなかった。
泣きそうな彼女が、一番人間らしいと思った。
これだけはわかってるよ。
何もわからないから、今こうして二人で居るんだ。
きっと。